福島地方裁判所 昭和34年(ワ)94号 判決 1959年6月08日
原告 鈴木忠市
被告 相良ナツ
主文
被告の原告に対する仙台高等裁判所昭和三〇年(ネ)第五四六号建物所有権確認、登記手続並びに建物明渡等請求控訴事件の判決中原告に対し金員の支払を命じた部分の強制執行は、これを許さない。
訴訟費用は被告の負担とする。
本件につき当裁判所が昭和三四年四月二四日附でした強制執行停止決定を認可する。
前項にかぎり仮りに執行することができる。
事実
原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決を求め、請求原因として、
一、当裁判所は昭和三〇年一〇月一〇日被告相良ナツを原告とし、原告鈴木忠市を被告とする昭和二九年(ワ)第一七八号建物所有権確認、登記手続並びに建物明渡等請求事件につき原告全部勝訴の判決を言渡したところ、同判決の主文第三項によれば「被告は原告に対し別紙目録記載の建物を明渡し、かつ昭和二六年一月一日以降同二八年三月末日まで一ケ月金一、九四〇円、同二八年四月一日以降同二九年三月末日まで一ケ月金一、九六八円、同二九年四月一日以降右明渡ずみまで一ケ月につき金二、三五七円の各割合による金員を支払え。」というのであつて、この部分については仮執行の宣言が付されていた関係上被告は当裁判所執行吏緒方新次郎に委任し、前示判決主文第三項に基く仮執行として、昭和三〇年一〇月一八日原告から別紙目録記載の建物につき明渡を受けるとともに、昭和二六年一月一日より明渡当日までの損害金一〇〇、一三八円および執行費用一、九〇〇円の支払にあてるためとして、同月二二日原告所有の動産を差押えたので、原告はやむなく同年一一月五日右差押の解放を受けるため緒方執行吏を通じてこれら損害金および執行費用の全額を支払つたのである。
二、しかし原告は、前示第一審判決には不服であつたから、仙台高等裁判所に控訴の申立をした為、右は同裁判所昭和三〇年(ネ)第五四六号事件として係属した結果、昭和三二年一〇月二三日前示第一審判決中主文第三項を「控訴人は被控訴人に対し右建物を明渡し、かつ昭和二九年六月七日から昭和三〇年一〇月一八日まで一ケ月につき金二、三五七円の割合による金員を支払え。」と変更する旨の被控訴人一部敗訴の判決が言渡された。原告はなお不服であつたから最高裁判所に上告したところ、被告もまた附帯上告して争つたが、結局昭和三四年一月二九日上告ならびに附帯上告を共に棄却する旨の判決があつて確定したものである。
三、しかるに被告は右第二審判決中金員の支払を命じた部分につき更に執行文の付与を得て昭和二九年六月七日から昭和三〇年一〇月一八日まで一ケ月金二、三五七円の割合による合計金三八、五四八円及び執行委任準備費用金七四〇円の支払にあてるためと称し、昭和三四年四月二〇日前示執行吏緒方新次郎に委任して原告所有の動産に対する強制執行に着手し、前欅製観音開き三重ねタンス一棹、抽斗四ケ左側鏡付洋服タンス一棹、リズムミシン一台、前黒柿製三重ねタンス一棹、一二球電気蓄音機一台等を差押えるに至つたのであるが、第一審判決第三項は第二審判決で前記のとおり変更されたのみならず、原告は前記のとおり第一審判決の第三項に定める全期間の損害金を支払つたのであるから、被告は第二審判決に基く損害金の支払を求めることは許されない筋合である。
よつて右第二審判決に基く債務名義による執行力の排除を求めるため本訴に及んだ。
と述べた。
被告は合式の呼出を受けながら本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面をも提出しなかつた。
理由
被告は原告の主張事実を明らかに争わないものと認められるから、これを自白したものとみなす。
ところで、判決によつて確定した請求に関する異議は、遅くとも右判決の口頭弁論終結後に生じた事由に基くものであることを要するのであるが、仮執行により債務者が債権者に対してなした給付は、一応債務弁済の効力を生ずるけれども、その効力は後に本案判決もしくは仮執行の宣言が変更されないことを解除条件とする暫定的、浮動的なものに過ぎないものであるから、債権者が既に仮執行によつて満足を受けた事実があつたとしても、上級審は右事実を斟酌することなく本案につき審理判決すべきものである、従つて、仮執行終了後における上級審の審理は、民事訴訟法第一九八条第二項との関係上、いわば仮執行の当否の判断を目的とするものであると称しても差支えないものである。しからば、仮執行に基く給付の事実は、たとえそれが事実審の口頭弁論終結前に生じた事実であつたとしても、爾後の審理において本案に対する抗弁として主張し得べかりし事由に含まれないのであるから、債務者は民事訴訟法第五四五条第二項の制限にかかわらず、右仮執行による債務の弁済を異議の事由として確定判決に対する請求異議の訴を提起し、その執行力の排除を求めることが許されるものと解するのが相当である。
以上の次第であるから、原告の本訴請求は正当として認容すべきものとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条、強制執行停止決定の認可およびその仮執行の宣言につき同法第五四八条第一、二項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 檀崎喜作 滝川叡一 近藤浩武)